核融合プラズマのコントロールには磁場が必要…その理由について解説(NF.1-4話)
この記事では、人工的な核融合プラズマのコントロールには、磁場が必要となる理由について解説します。
1つ前のNF1-3話「核融合とプラズマ」では、プラズマが、気体より高温の「第4の状態」と説明しました。また、「人工的に核融合を起こそうとするならば、高温・高圧のプラズマを、長時間作り続ける必要がある。」ということを説明しました。
太陽が良例です。太陽は、水素とヘリウムの巨大プラズマです。そして、その中心では、太陽自身の重力により圧力がかかり、核融合が起きます。
そして、このNF1-4話では、人工的に核融合を起こすために、どうやって高温・高圧のプラズマをコントロールするかについて解説します。実は、タイトルで既に答えを出していますが、磁場を使います。
なぜ、磁場を使って核融合プラズマをコントロールできるか、その解説です。
目次
- 人工的な核融合プラズマをコントロールするための挑戦
- 核融合プラズマを浮かせて、コントロールすることが重要
- 核融合プラズマのコントロールには、磁場が適切
- プラズマは電気的な性質を持つ(電離)
- 電気的な性質を持つとできること
- 電気と磁場の関係
- プラズマは磁場を受けるとどう動くか
- プラズマが磁場を受けたときのサイクロトロン運動
- 核融合プラズマのコントロールも、磁場によるサイクロトロン運動で
- まとめ
核融合プラズマのコントロールには磁場が必要…その理由について解説
(NF.1-4話)
人工的な核融合プラズマをコントロールするための挑戦
1つ前のNF1-3話では、「人工的に核融合を起そうとするならば、高温・高圧のプラズマを、長時間作り続ける必要がある。」と説明しました。これができれば、地球上に小さな太陽を作ったことになり、そこから大きなエネルギーが得られます。
問題は、核融合用の高温・高圧のプラズマを、どうやって長時間作り続けるか。
人工核融合を起こすなら、実は、大体1億度以上の超高温プラズマが必要です。
そんな高温にするのも大変ですが、高温にできても今度は、周囲の物を溶かしてしまいます。
そのため、核融合プラズマは、周囲の物から浮かせて維持しないといけません。
核融合プラズマを浮かせて、コントロールすることが重要
幸い、核融合プラズマは、気体のように空中に浮いてはくれます。
ただ、放置すると、あちこちに飛んで行ってしまいます。 そのため、核融合プラズマを周囲の物から浮かせるだけでなく、コントロールすることが重要なのです。
核融合プラズマのコントロールには、磁場が適切
そして、この核融合プラズマのコントロールには、磁場がとても役立ちます。
磁場とは、磁石が発生している、引き合ったり反発し合う、目には見えない力です。
なぜ、磁場を使ってプラズマをコントロールできるかは、プラズマが持つ性質によります。そのプラズマの性質と、磁場でどう核融合プラズマをコントロールするかを、これ以降でお伝えします。
プラズマは電気的な性質を持つ
まずは、1つ前のNF1-3話に続き、プラズマの性質をさらに解説します。
ここでお話することは、「物質は、プラズマ状態になると、電気的な性質を持つ」というものです。
NF1-3話「核融合とプラズマ」では、プラズマ状態では、原子核と電子は離れて動くようになると説明しました。
そして、NF.1-2話「核融合反応の条件」では、陽子がある原子核はプラスの電気をもち、電子はマイナスの電気をもつことを紹介しました。
固体・液体・気体のときは、原子核と電子はセットで動きます。そのため、電気はプラスマイナスゼロに打ち消しあいます。
しかし、プラズマ状態になると、原子核と電子は離れて動きます。この離れている間は、原子核にはプラスの電気の性質が、電子にはマイナスの電気の性質がそれぞれ現れるのです。
電離
このように、原子核と電子が離れると、原子核と電子それぞれが元々持っていた、電気的な性質が現れます。これを、電気が離れると書いて「電離(でんり)」と言います。
ですから、プラズマ状態にある物質は、電離している、電気的な性質があると言えます。
電気的な性質を持つとできること
電気的な性質があるものでは、次のようなことが起こります。
(NF.1-2話「核融合反応の条件」で説明しました)
プラズマも、電気的な性質があるので、次のことは起こります。
- プラスの電気同士は反発する
- マイナスの電気同士も反発する
- プラスとマイナスの電気は引き合う
そして、ここからは新しい話をします。それは、
「プラズマのように電気的な性質があるものの動きは、磁場を使ってコントロールできる」という話です。
電気と磁場の関係
そもそも、電気と磁場には切っても切れない関係があります。
皆さんは小学生のとき、理科の授業でこんなことをやった覚えはありませんか?
銅線に乾電池をつないで電気を流し、その近くに方位磁針を近づけるのです。
すると、電線の周りでは、方位磁針の針の向きが変わります。これは、ちょうど下の図の様に、電流が流れる電線の周りには、円刑の磁場が生じるためです。

◆ 引用元: NHK for School
このように、電流が流れるものは何でも、磁場を生じます。
(磁場は目に見えませんし、人間は弱い磁場を受けても感じません。なので、電気が流れるスマホや家電を使っていても普段気づきませんが。)
そして、磁場を出すものは、N極同士の反発・S極同士も反発・N極とS極は引き合うという原理の下、他の磁場の影響を受けます。
つまり、ここで言いたかったのは、プラズマのように電気的な性質があるものは、磁場によって力を受けるということです。
プラズマは磁場を受けるとどう動くか
では、プラズマ状態での原子核と電子が、磁場を受けてそれぞれどう動くか説明します。
実は、ドラゴンボールの魔貫光殺砲(まかんこうさっぽう)!!という技のような動きをします。ピッコロの有名な技ですね。

??と思うかもしれませんが、実際そうなのですよ☺
物理学では、この動きに名前があって、「サイクロトロン運動」と呼ばれます。
プラズマが磁場を受けたときのサイクロトロン運動


上の図は、プラズマ状態での、原子核と電子のサイクロトロン運動の様子です。
図では、左右の両端に磁石のN極とS極が置かれている状況をイメージしてます。NからSに向かって磁場ができます。
NからSに向かう磁場は目には見えませんが、図・絵で「磁場があるよ」という状況を矢印で表すことがあります。これを、「磁力線」といいます。
サイクロトロン運動では、まさにこの磁力線を中心に、原子核・電子はらせんを描くように動きます。
この、磁力線に巻き付いて動くような様子が、魔貫光殺砲に似ていますよね?
なお、原子核はプラスの電気を持っていて、電子はマイナスの電気を持っています。この電気の種類の違いにより、原子核と電子のサイクロトロン運動は、回転が逆になります。そのため、図を原子核と電子で別々にしました。
核融合プラズマのコントロールも、磁場によるサイクロトロン運動で
1つ前の節では、磁場がプラズマ中にあると、原子核と電子はサイクロトロン運動をすることを説明しました。磁力線を中心に、原子核・電子はらせんを描くように動きます。
この性質を生かすことで、磁場で核融合プラズマもコントロールできます。
つまり、磁力線を中心にプラズマ中の原子核と電子が動くので、磁力線の向きを変えてあげれば、核融合プラズマをその方向に移動させることができます。磁力線の向きを変える、とは、磁場の方向を変えることを意味します。
ただ、核融合プラズマのように超高温のプラズマをコントロールするには、とても強力な磁場が必要になります。
まとめ
原子核と電子が離れると、原子核と電子それぞれが元々持っていた、電気的な性質が現れる。これを、電離(でんり)という。
プラズマ状態の原子核・電子は、磁場中では、ドラゴンボールの魔貫光殺砲(まかんこうさっぽう)のような動きをする。これを、「サイクロトロン運動」という。
サイクロトロン運動の現象を使って、磁場により、プラズマ状態の原子核・電子の動きをコントロールすることができる。